ドローン赤外線と打診の精度の比べ方|
「同等以上」の意味
ドローンによる赤外線調査の精度は、カメラの性能表の数字だけでは決まりません。告示が求める「テストハンマーによる打診と同等以上の精度」の判定に参照されるガイドラインでは、撮影を始める前に同じ壁面で打診と熱画像を照らし合わせ、打診で見つけた浮きが熱画像に出ることを確かめる工程が中心に置かれています。発注する側がまず確かめたいのは、「その建物の、その日の、その壁面で、打診との照らし合わせが取れているか」です。
赤外線で浮きが見つかる仕組みや、精度を左右する条件の全体像は「赤外線外壁調査の仕組みと精度」で説明しています。この記事では、比べ方と発注者が確かめることに絞ります。
「打診と同等以上の精度」とは何を指すか
平成20年国土交通省告示第282号は、外壁のタイルやモルタルなどを調べる「打診等」に、無人航空機による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものを含むとしています(令和4年の改正)。国土交通省の技術的助言によると、平成29〜30年度の建築基準整備促進事業などで検討した結果、一定の実施要領に則れば、赤外線装置を搭載した無人航空機による調査で打診と同等以上の精度で浮きを検出できることがわかったため、打診以外の調査方法として明確化されました。
同等以上かどうかの判定にあたって、国土交通省は、一般財団法人日本建築防災協会が設置した委員会がまとめた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」(令和4年3月。以下、ガイドライン)を参照するよう示しています。ガイドラインは「赤外線調査」を、熱画像の表面温度差からタイルなどの浮きの有無や程度を調べる方法のうち、打診と同等以上の精度であることが確認された方法に限ると定義しています。つまり「同等以上」は、ドローンや赤外線カメラという道具に最初から備わっているものではありません。対象の壁面ごとに、適用できるかを判断し、確かめていくものです。
この考え方には背景があります。建築研究所の令和元年度講演会のテキストでは、ガイドライン以前の実建築物での実証実験で、ドローンに載せた赤外線装置の結果が打診の結果と一致しているとは言い難い例があり、原因として熱画像の円形の温度むら(シェーディング)、装置の性能、撮影のタイミングが挙げられていました。ガイドラインは、装置の仕様、画像を重ねて撮ることによるシェーディングへの対応、打診との照らし合わせを定めています。
打診にも弱点があります。同じテキストは、打診の診断精度は検査する人の技能や経験に左右され、調査時間が長くなると疲れなどから判断が不正確になりやすいという指摘があることも紹介しています。どちらの方法も、条件と手順しだいで精度が変わると考えるのが実態に近いでしょう。
精度は「打診との照らし合わせ」で確かめる
ガイドラインの解説は、外壁調査を始めるにあたり、壁面の方位ごとに打診の結果を使って赤外線調査の精度を確かめることとしています。目的は2つです。熱画像で見つけた浮きと打診で確かめた浮きを比べること、そして撮影を始める時刻を決めることです。
打診は、1階の外壁、各階の共用廊下、外部階段、屋上パラペットなど、手の届く範囲で行います。照らし合わせの方法は次のとおりです。
- 赤外線で健全と判断した部分を、各壁面1か所、約1㎡ほど打診で確かめる
- 赤外線で浮きと判断した部分を、各壁面1か所、約1㎡ほど打診で確かめる
- 打診で確かめた健全部と浮き部の表面温度に差があり、範囲がおおむね一致することを熱画像で確かめる
同じ壁面でも仕上げ材が違う部分があれば、その部分ごとに確かめます。手の届く範囲で浮きが見つからなかった場合は、そのことと撮影を始めた時刻を記録します。この場合は、浮き部と照らし合わせができた場合とは根拠の強さが違うので、同じように扱わないことが大切です。
照らし合わせでは、打診で浮きとわかった所と、熱画像で温度が変わっている所が一致する温度差を「基準温度差」として、現場ごとに設定します。解説の掲載例では、浮き部が41.4℃、健全部が40.2℃で、基準温度差は1.2℃です。この例の目安として、壁面に日射が当たっている場合は1.0℃以上、当たっていない場合は0.5℃以上という数字が示されています。ただし、これは掲載例の熱画像についての目安で、すべての壁面に共通する浮き判定のしきい値ではありません。
重要なのは、打診で浮きと判断した箇所が熱画像で検出できない場合は、検出できるまで赤外線調査を行わないとされている点です。解説は、打診で浮きと判定された箇所を赤外線で健全と判定することは危険側の判定になるとして、とくに避けるべきものとしています。どの部分で照らし合わせたかは報告書に書くことになっているので、発注者はここで、その調査の精度の根拠を確かめられます。
精度を左右する条件と、ガイドラインの目安
照らし合わせが取れるかどうかは、撮影の条件で決まります。ガイドラインと解説が示す目安を、発注者が確かめる点と合わせてまとめました。
| 条件 | ガイドライン・解説の目安 | 発注者が確かめること |
|---|---|---|
| 天候 | 撮影開始の2時間前から撮影中まで「晴れ」「晴れ時々曇り」なら可能、「曇り時々晴れ」は困難、曇り・雨・雪は不可能 | 撮影日の天候の記録 |
| 気温・風 | 最低気温5℃以上、日中の気温の較差5℃以上、撮影時の平均風速5m/s未満。当てはまらなければ延期 | 予備日を見込んだ計画か |
| 壁面の濡れ | 降雨で濡れていると気化熱の影響で判定できない場合がある。表面が乾いていることを確かめる | 前日の雨の確認の有無 |
| 時間帯 | 浮きの深さや大きさで検出できる時刻が違う。撮影時刻を変えて複数回撮る | 面ごとの撮影時刻 |
| 方位 | 北面は日射が当たる時間が短く、著しく困難。照らし合わせができなければ実施しない | 北面の扱い |
| 撮影角度 | 仰角・水平角とも30°以内が望ましく、やむを得なくても45°程度まで | 撮影位置の計画 |
| 撮影距離 | 壁面100mmあたり4画素程度で撮れる距離。空間分解能0.9mradの装置なら最大で約27.7m | 使う装置と撮影距離 |
| 装置 | 最小検知温度差0.1℃以下、320×240画素程度以上、温度情報を記録できる形式 | 装置の仕様 |
| 周りの熱 | 周辺の建物からの反射、室内の熱源(常夜灯など)、柱・梁を伝わる熱で誤った温度変化が出る | 設計図書と現地での確認 |
日射の効き方については、建築研究所が令和6年度に終えた研究があります。南南西向きの実建築物のRC外壁に疑似的な浮きを設けた試験体を作り、年間を通じて毎月1回程度、各回24時間観測したものです。報告では、夏以外の季節に浮きを検出するのに800〜1,700kJ/㎡程度の日射の蓄積が必要だった例が示されています。これは特定の寸法・厚さの疑似浮きについての結果で、一般の外壁に共通する必要な日射量ではありません。それでも、赤外線調査は一度だけでは浮きを検出できない可能性が大きく複数回の撮影が必要なこと、日射が遮られるとタイル表面から深い位置の浮きは検出が難しくなることが確認されたとしています。
ドローンを使って改善できるのは、この表のうち撮影角度と撮影距離です。ガイドラインの解説は、天候、気温の較差や風、仕上げ材や下地、周りの熱、建物の形状による制約は、ドローンを使っても同じように受けると整理しています。
赤外線が苦手なもの
次のものは、ガイドラインの解説で赤外線調査が困難、または注意が必要とされています。
- 下地:木摺ラス、鉄骨ラス、ALC、押出成形セメント板(ECP)。熱容量の小さい板や中空のある板状の材料で、これらを下地とするタイル等の浮き調査には、赤外線調査を適用できないとされています。板そのものの劣化を調べる調査とは別の話です。タイル先付けPC版も、浮き代ができないため浮きの検出は困難です。
- タイルの種類:反射の強い施釉タイル、ラスタータイル(金属光沢のあるタイル)、白色系のタイル、凹凸の大きいタイル。深目地も分析が難しくなります。
- 部位:軒裏、出隅・入隅、庇の鼻先、笠木や窓台など材質の違うものに接する部分の近く、雨樋や柱の影、窓枠の近くや開口隅部、水平打継部、斜壁。
- 細いひび割れ:赤外線は浮きを見る方法です。ひび割れは可視画像で記録しますが、撮影距離によっては細いものの幅までは判別できません。
打診との組み合わせ方
ガイドラインを参照した調査では、打診は赤外線の「おまけ」ではなく、精度を支える一部です。組み合わせ方は大きく3つに分かれます。
| 場面 | 打診などの役割 |
|---|---|
| 撮影を始める前 | 方位ごと、仕上げごとに手の届く範囲で打診し、熱画像で浮きが検出できることを確かめる。撮影の開始時刻もここで決まる |
| 赤外線に向かない部分 | 光沢や凹凸の強いタイル、照らし合わせが取れない北面などは打診で調べる。斜壁は可能な限り打診を併用し、笠木の近くも打診との併用を念頭に置く。ALCや押出成形セメント板を下地とするタイル等は赤外線調査を適用せず、仕上げと工法に応じて、打診や所定の条件を満たす引張接着試験などから選ぶ |
| 撮影できない面 | 隣の建物との間が狭い、障害物が多いなどでドローンが近づけない面は、ロープアクセスなどの打診で調べる |
見積を比べるときは、どの面のどの範囲を打診などで調べるのか、その方法(手の届く範囲か、ロープアクセスなどの高所作業か)が分けて書かれているかを確かめてください。打診の範囲があいまいな見積は、後から費用が増えたり、調べていない面が残ったりする原因になります。
発注者が計画書と報告書で確かめること
ガイドラインは、調査計画書と報告書に載せる項目を定めています。次の点が書かれているかを確かめましょう。
- 赤外線で調べる面と、別の方法で調べる面が図で分かれているか
- 打診と照らし合わせた場所と、その結果(基準温度差、浮きが見つからなかった場合はその記録)
- 撮影日の天候、気温、風速と、適用条件のチェックリスト
- 面ごとの撮影時刻
- 赤外線装置の仕様と性能
- 浮きと判定した箇所を示した外壁調査結果図と、熱画像・可視画像の対応
ただし、記載があるだけで精度が保証されるわけではありません。照らし合わせたのは各面の一部で、まだ確かめていない部分を含めて見落としがないとまでは言えないからです。書かれている根拠がその壁面に合っているかを、外壁調査実施者(12条の調査者)に説明してもらうことが大切です。
調査の方法全体と報告書の項目は「ドローン外壁調査とは」で、熱画像を分析する人に求められる知識と資格は「ドローン外壁調査に資格は要るか」で説明しています。12条での扱いは「12条点検でドローン赤外線調査は使えるか」もあわせてご覧ください。
まとめ
「打診と同等以上の精度」は、赤外線カメラを積んだドローンに最初から備わっているものではありません。方位ごと・仕上げごとの打診との照らし合わせ、天候と時間帯の管理、装置と撮影距離の選び方、赤外線が苦手な部分の補いを、対象の壁面ごとに確かめて積み上げるものです。比べるときは、計画書と報告書の根拠を見たうえで、その根拠が建物に合っているかを調査者に確かめてください。
当社のドローン外壁調査は、ガイドラインに沿って実施し、ドローンで撮影できない面や赤外線で判定しきれない箇所は、ロープアクセス等による打診で当社の調査範囲として補います。報告書は、変状の位置・可視光写真・赤外線画像を1冊にまとめ、整理と組版は自社開発のシステム「WALLNOTE」で行い、技術者が全件を確認します。
よくある質問
参考にした資料
- 国土交通省「建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件」(平成20年国土交通省告示第282号。令和5年3月20日改正までを反映した掲載版。令和6年告示第974号などの後の改正と合わせて読む)
- 国土交通省「令和6年国土交通省告示第974号」
- 国土交通省「建築基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(技術的助言)」令和4年3月29日 国住指第1581号・国住参建第3982号
- 国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
- 一般財団法人日本建築防災協会が設置した委員会「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」令和4年3月(国土交通省掲載)
- 同ガイドライン(解説付き・一般財団法人日本建築防災協会掲載)
- 国土交通省「建築物の定期調査報告における外壁の外装仕上げ材等の調査方法について(技術的助言)」平成30年5月23日 国住防第1号
- 国立研究開発法人建築研究所「赤外線調査法を用いた外壁調査の適用限界の定量的指標に関する研究」(令和6年度に終了した研究開発)
- 国立研究開発法人建築研究所 令和元年度建築研究所講演会テキスト「建築物の外壁の定期調査における新たな技術の適用に向けて」(講演会は開催中止・テキストを公開)
対応エリア別の解説
東京・神奈川を中心に全国対応しています。定期報告の対象になるかは自治体で判断が分かれるため、市区ごとに制度とドローン飛行の条件をまとめています。






